再発した粉瘤の手術をした。


 それほどたいした手術ではないとわかってはいても、歯科以外の外科手術はあまり受ける機会がないのでやはり緊張する。診察室へ入るまではわりと普通でいられるものの、ベッドに寝かされるとやはりちょっと自分の動きがぎこちなくなるのがわかる。その状態で体温と血圧を計った後、細身で美人の看護師がおもむろに俺の指先にクリップみたいなセンサーをつけ、その瞬間から俺の心拍が電子音でリアルタイム中継されることになった。診察室内に俺の心臓の鼓動が、サイン波の素朴な音色に変換されて鳴り響く。これで俺の心理状態はいまからガラス張りだ。
 看護師がとにかく美人なので俺はちょっといいところを見せようと思って、緊張してませんよ、みたいな顔をするのだけれども、顔の半分に覆いをされたり消毒されたりしていると、最初BPM80くらいを刻んでいた心拍はあっという間にミニマルテクノくらいになってしまう。何とかせねばと思い、リラクゼーションの基本であるところの腹式呼吸を意識することにより、俺のヒューマンビートボックス(違う意味で)は少し遅いBPMを刻むようになった。リラックスリラックス、と心の中で念じる俺のありようは哲学的な視点から見ればアニメ一休さん以外の何者でもなかったと思うのだけれども、ひとまず気を落ち着けた俺が、どう?って感じで看護師さんのほうを見ると、美人すぎてそれはそれですぐ心拍数が上がったりして、とにかくもうそんな感じで俺は今考えてみればものすごいゲーム感覚な手術時間を過ごしたのでファミコン世代すぎる。あとこれを書くのは都合3回目だが、看護師さんがほんとに美人だった。


 ゲームの合間にはやっぱり見えない患部のことを想像していて、ああいま粉瘤にメスを入れて中身を掻き出しているのかなあ、とか思っていたのだけれども、最後に摘出した患部を見せてもらったところ切断とか全然してなくて丸のままくりぬかれていて、俺の推理力は未だ未熟である。くりぬかれた患部はもともと俺のもみあげの皮膚だったオブジェクトで、表皮にあたる面には髪が生えており、そのことが、ああこれは身体なのだな、ということを強く感じさせた。生命を生命たらしめているのは毛なのかもしれない。ハゲは死体。(自戒をこめて)(なんだと!)