国際口琴フェスティバル in 東京“月”@渋谷 O-nest


 俺は大学の頃だったか高校のときだったかに買った口琴を、なぜだかずっとカバンの中に忍ばせて常時携帯している。それでこないだ九州大に取材に行ったときに、たまたまそのことで話が盛り上がって、東京で口琴フェスティバルがあるんだ、ということを教えてもらったのだ。あの日の熱も覚めやらぬ、という感じでもちろん行ってきた。
 

 2フロア2ステージだったので行き来しつついろいろ見ようと思ったけれども、1ステージが短いこともあって結局ほとんどメインのステージのほうにいた。これがもうたまらなく面白くて記憶を風化させるにはもったいないので、ここに書き留めておく。以下、中でも気になった人をダイジェストで。


 時々自動はこのイベントで知った。演劇方面の人たちなんかな。前半、口琴のキャラクターが登場するアニメーションを生アフレコつきで上映して、後半は持ち曲を口琴アレンジで。口琴の合奏のしかたが独特(フレーズの中の一音ずつを分担して割り振ってたり)で、面白かった。終盤になるにつれて管楽器なんかも登場して、大所帯なこともあって賑やかな空気に。口琴アレンジじゃない普段の演奏も聴いてみたくて、CDを買った。


 同じくサム・ベネットもはじめて知った人。口琴やら色んな楽器やらおもちゃやらをリアルタイム録音して、それをループしながらオーバーダブしていき、そこにブルースの歌を乗せていく。昔メタモルフォーゼで見たジェイミー・リデルを思い出した。演奏も面白かったんだけど、なんか1曲すげえかっこいい歌があったな。髪が燃えてる女の歌だと言っていた。


 パスカルズの知久さんは生で見たのは初めて。話し声は意外と高くないんだ、と思った。弾き語りを2曲くらいやって、口琴のエピソードを語りつつ最後に口琴。そこで使ってた口琴がなんかすごかった。3片口琴ってやつで、音の違うのが3本くっついてるやつ。ひとつひとつの音も、サイズが小さいからミヨーンみたいなちょっと電子音っぽい音で、俺はグッと魅かれてしまったので終わってすぐに物販見に行ったんだけど、なかった。絶対ネットで買う。


 巻上公一は何年か前にエルメート・パスコアルの来日公演で見て以来。今日は珍しい口琴を実演しながら紹介しつつ、同時にボイス(&顔)パフォーマンスを織り交ぜて。紹介された口琴は、可聴音域を越える低音口琴とか(!)、自動で振動する電気口琴、パイプを使った共鳴筒など。楽器紹介だけでも十分興味深いのに、間に変な顔とか変な声とか入れてくるので、どう転んでもおかしいって感じで、もうなんかずるい。


 そしてサハのアヤルハーン。物販で口琴売ってたおばちゃんに「ほんとにすごいから」って言われたんだけど、まさに。カッコウの鳴き声や馬のいななきや鍛冶屋のハンマーの音などを、おもわずアッと声がでるくらいのリアリティで鳴らすのだけれども、本物の音に似すぎていて、もはやそれが声まねなのか口琴によるものなのかわからない。いわゆる口琴のビヨンビヨンした音にそういう音まねが乗っかっていって、全体で天地創造だとか、聖職である鍛冶屋の仕事だとかを描写していく。3人の口琴から同時に倍音が放たれるともうものすごい密度で、空気中を完全に埋め尽くしてしまうような迫力。天地創造とかってものすごい大仰なテーマだけど、ああこれは天地創造だわ、って思ってしまうほど、圧倒的な音の「力」みたいなものがある。しかしこれだけいわゆる「唄」からはずれたものが土着の音楽だっていう事実はほんとに驚愕というか、なんか世界って計り知れないよなあ、と思ってしまう。

 
 長くなってしまった。予想以上にいろんな面白い音楽に出会えてすごく充実した時間をすごした。あと予想どおり、俺も口琴練習しよう、って思った。小さくて表現力豊かで、ほんとに愛おしい楽器だよなあこれ。