電車で隣に乗っていた30代後半くらいのサラリーマンが、はじめはDSで競馬かなんかのゲームをやっていたんだが、疲れているんだかそのうちゲームやりながら寝てしまった。うつらうつらと頭を揺らしながら寝息を立てる彼の手元の液晶では、俺が覗き込んだところによるといままさにレースの真っ最中で、彼が何かここでボタンを押したりしなければ彼の馬は負けてしまうのではないか、と俺はヒヤヒヤしながら、というのは嘘で、もっと寝ろ!もっと寝ろ!と思いながら見ていた。どうもレースは1度だけではないらしく、彼が寝ている間にレースは終了し、また次のレースが始まった。俺は2レース目の途中でこの愉快なシチュエーションにも飽きて見るのをやめてしまったので、このまま彼が眠っている間に彼のあずかり知らぬところで何レースが行われたのかはわからない。ただ、一度彼が目を覚まして少し、はっ、という顔をしたあと、しかし何十秒も経たないうちに再び向こうの世界へ引きずり込まれていくという場面があり、そのときの様子がなんとも、人間という存在のいじらしさについて思いを馳せずにいられないような、そんな味わい深いものであった。


 先週、腕時計が止まったので電池交換に行ったら、いったんカウンターに預けたあとに、電池変えなくても動きましたよ、と言って返された。それで昨日からまた時計が動かなくなっていて、今日電気屋に行ったらカウンターの前で気づいたら動いていた。これを繰り返すとそのうち電気屋に行こうと思うだけで止まった時計が動き出すのではないか、という話をパブロフの犬と関連付けて何か書こうと思ったのだが面倒になってやめた。ちなみに今見たら止まっている。


 時計が止まってると、止まってるって知ってても癖で一日何回も見てしまって、そのたびにがっかりするので非常に意気消沈したまま体温の低い一日を過ごすことができる。